■日本の財政状況と私たち 〜 今後日本は、どうなっていくの? 〜  その3
 今まで2回のセミナーで日本の財政の現状とこれからの状況を見てまいりました。ここに来て来年度の予算策定の中からもいろいろな現実が見えてきます。今回は、最新のデータの中からもう一度今の日本の財政状況を確認し、今後どのように対策をすべきか書いてみたいと思います。

 来年度の予算は、「実質的に今年度以下に抑える」という政府の方針がありますが、その中で「国債の元利払」である国債費は、9.5%増の18.4兆円程度になります。現在、税収が41兆円程度ですので、約45%が借金返済に消えるということになります。しかも「国債の元利払」とはいえ、償還期間のくる全ての国債の元本を返済しているわけではなく、約75兆円分は借換債を発行し回転させています。
 国債の利払いだけで見れば、約10兆円に上ることになります。しかもこの低金利の状況下においてです。この先、金利の上昇があれば国債費の増加は恐ろしいことになります。

 ところが、最近よくニュースになりますが、長期金利がじわじわと上昇してきています。ここで少し長期金利と国債についても説明したいと思います。
●長期金利と国債
 長期金利は、10年物国債の利回りを言います。
 長期金利が上昇すると国債の価格は下落します。(資料1 参照)

(資料1)国債の利回りと価格
 国債(債券)は、利回りが上がると価格は下がります。
 これを右の図で解説します。
 国債(債券)は、途中の価格は変動しますが、償還時の価格は決まっています。

 【図1】は、現在80万円のものが価格変動しながら償還時(10年後)100万円になった図で、利回りは2.5%になります。
 【図2】は、現在50万円のものが価格変動しながら償還時(10年後)100万円になった図で、利回りは10%になります。
この図を比べますと利回りが高い【図2】の方が、現在価格は安いことがお解かりいただけると思います。
 価格が安いものほど、増え方が大きいわけですから当たり前ですね。
このように国債(債券)の場合、価格が安いものほど利回りは高く、価格が高いものほど利回りが安くなります。


 国債は、機関投資家である金融機関が大量に保有しています。今、長期金利が上昇すると国債の価格が下落するために、ほとんどゼロ金利に近い国債を大量に保有してしまっている金融機関は「債券含み損」を抱えることになります。
●中小の金融機関の状況
 都銀など大手金融機関は、株式も大量に保有しているため最近の株高で含み益が出て、この「債券含み損」を相殺できます。しかし、地銀などの中小金融機関は、株式の保有が少なく「債券含み損」による影響をまともに受けます。したがって、中小金融機関がたいへん厳しい状態に陥りつつあることは間違いありません。
 ゼロ金利に近い国債の金利は、上昇するしかないわけですから、国債の価格は逆に下がるしかないのです。金融機関は、下落するしかない国債を大量に抱えている状態だといえます。

 このような状況下にありながら、日本は国債の発行を続けなければなりません。来年度は、約40兆円の新規国債の発行が予想されます。金融機関は、今保有している国債の価格の下落に神経を尖らせ、少しでも保有を少なくしたいと考えます。つまり国債は売り手ばかりで買い手が無く、金利をどんどん上げざるを得なくなるということです。(価格はどんどん下がるということです。)
 そうなれば今まで書いてきましたような大きな問題が一気に噴出することになります。それまでに残された時間はあまりないということです。
●対策は?

 それでは私たちは今後どのような対策を取ったらいいのでしょうか。
 先月のセミナーで戦前戦後のハイパーインフレの話を書きました。物価が72倍になり、720万円のお金の価値が、10年後には10万円の価値になってしまったというあの話です。
 ほとんどの日本人は、この時一気にそれまでの資産を失いました。しかし、中にはごく一部ですが、このハイパーインフレにも関わらず資産を保全し、さらに大きく増やした方もあったようです。当時の財閥のトップの方は、スイスのプライベートバンクに資産を分散され、見事にこの危機を乗り切ったという話です。

 この話は、本当の話かどうかはわかりませんが理論的には裏づけができます。
 つまり、財閥のトップの大富豪の方は、スイスのプライベートバンクに資産を預けることにより、いろいろな国の金融商品を保有し、通貨の分散もしていたのです。
日本にハイパーインフレが起きていた時、円は大暴落しました。ドルで比較しますと、逆にドルは急騰し、10年間で約84倍の「円安ドル高」になっっていたのです。
1940年当時、1ドル=約4円30銭でした。
 ところが、1950年には、1ドル=360円になりました。
 1940年に10万円をドルに換えると約23,256ドルでした。
 1950年に23,256ドルを円に換えると約837万円になりました。
 10万円が、10年間で837万円になったのです。(資料2 参照)

 このことにより、戦前(例 1940年)に海外にドルで資産を保有していた方は、戦後(例 1950年)約84倍になって還ってきたことになります。(この間には、金利もついて実質150倍以上になったと思われます。)
 インフレが、約72倍ですのでこのような対策をされた方は、見事インフレに勝る運用をされたというわけです。
 今後、日本がこれほどの経済変動に見舞われるかどうかはわかりません。しかし、もしその可能性が少しでもあるならこのような対策をとるべきではないでしょうか。

 もし、日本に何ごとも起こらず、平和に大借金の処理がなされたならば、そのときは、単にドルで運用していただけのことで特に問題はありません。もともとドルは金利も高いので、5年以上預ければ為替リスクは利息により吸収され、あまり問題にならなくなります。
 それでもあえてリスクを考えるとすれば、「日本では平和に大借金の処理がなされ、米国は経済ががたがたになり、1ドル70円以下のドル大暴落状態」になった時です。
 しかし、現実的には日本は米国にほとんど従属している状況にあり、このシミュレーションは、机上の空論だといえます。(米国ががたがたになる前に日本が犠牲にされます)

●金融資産の分散
 このような考えから私は、お客様に金融資産を海外の金融機関に分散することをお勧めしています。
 ここで間違えていけないことは、日本の金融機関にドル預金等でドルを保有されましても、経済の大変動の中では日本の金融機関自体の破たんリスクが大きく対策にはなりません。やはり、海外の高格付けの金融機関に分散(逃避?)されるべきです。
 海外の金融機関と聞いてどのようにしたら良いか全く解らないとおっしゃられる方も多いと思いますが、ご希望の方には個別にご相談させていただきます。海外の金融機関と言いましても、それほど敷居は高くありませんのでご安心ください。

筆者:Progress International Consulting Co.,Ltd.
浅野 浩
asano@progress-international.com