■日本の財政状況と私たち 〜 今後日本は、どうなっていくの? 〜  その2
 前回、日本の財政が危機的な状況になっていることを書きました。もう一度、簡単に要点だけ書きます。現在日本の財政状況は、国の借金だけで668兆円あります。しかし、「税収+その他の収入」は約45兆円しかなく、毎年の「歳出」(2003年は約82兆円)にも新たな借金(新発国債の発行)をしなければ足りない状態となっています。さらに地方の借金が200兆円を超え、隠れ借金まで入れた借金総額は、1300兆円に達するといわれています。

 この状態が続くといったいどうなるのでしょうか?
 【図1】のような流れが考えられます。
図1 このままの状況が続くと日本は・・・?
  1. 新発国債の発行が、年々増加していきます。
  2. 国債の引き受け手が、だんだん少なくなります。
  3. 利回りを上げないと国債が売れなくなります。
    (長期金利の上昇、債券価格の下落)
  4. 大量に国債を保有する金融機関は、債券価格の下落により大きな含み損を抱えます。
    (金融危機の発生)
  5. 借入金の多い企業は、借入金利の大幅上昇のため倒産が多発します。
  6. 個人も住宅ローン金利の大幅上昇により、支払いが苦しくなり自己破産が多発します。
  7. 国は国債の償還も苦しくなり、さらに期間の長い超長期国債を発行したり、日銀による国債買取りが行われます。
  8. 1.〜7.を繰り返しどんどん厳しい状況に陥ります。
  9. 通貨としての「円」の信用がなくなり大暴落します。これにより、国内では大きなインフレが起こり、国民の生活は破たんします。
●打ち手は?

 では、国はどのような手を打つのでしょうか?
 以下の2つのことが考えられます。

  1. 資産税を含む大増税の実施と大幅な歳出カットをする。
  2. 特にこれといった手立てのできないまま、相変らず財政出動をし続け大インフレが発生する。

 ここに興味深い資料【図2】があります。これは、2002年2月14日の衆議院予算委員会で民主党議員が行った質問の中で、日本の財政の収支バランスを正常にするにはこのようなプログラムが
 必要だとIMF(国際通貨基金)では考えられているという発言の中身です。

図2 IMFで考えられている(?)日本の財政再建案の中身
  1. 公務員の総数、給料は30%以上カット、及びボーナスは例外なくすべてカット。
  2. 公務員の退職金は一切認めない、100%カット。
  3. 年金は一律30%カット。
  4. 国債の利払いは5年から10年間停止。
  5. 消費税を20%に引き上げる。
  6. 課税最低限を引き下げ、年収100万円以上から徴税を行う。
  7. 資産税を導入し、不動産に対しては公示価格の5%を課税。
    債券、社債については5〜15%の課税。
    預金については一律ペイオフを実施し、第二段階として、預金を30%〜40%カットする。

〜 2002年2月14日 衆議院予算委員会会議録より 〜

 現実にこのようなことが行われるかどうかはわかりません。しかし、このくらいの厳しい対策をしないと日本の財政は再建できないところまで来ているのです。このことは、塩川財務大臣、竹中経済財政政策担当大臣ともにこの発言の後、こうした状況を認識していると認めています。

(衆議院予算委員会 2002.2.14)
●いったいどうなるの?
 では、もし今のまま何の手立てもせず、最初の【図1】のとおり、大きなインフレが起きたらいったいどのようになるのでしょう。

 今から58年前(1945年)、実際に日本ではハイパーインフレが国民を襲いました。太平洋戦争の敗戦により、日本の財政が破たんしたのです。

 数値で見ますと、1940年(戦前)〜1950年(戦後)の10年間で物価(消費者物価指数)が72倍になりました。具体的には、10万円で買えた物が、10年後には720万円出さないと買えなくなったということです。逆に言えば720万円のお金の価値が、10年後には10万円になってしまったということです。現金・預貯金・保険などが「紙くずになった」と言われているのはこういうことなのです。

 もちろん、この時は戦争により経済も破壊され、今と単純に比較することはできません。しかし、財政破たんを起こした国は、例外なくハイパーインフレに見舞われます。トルコ、アルゼンチン、ロシアも然りです。戦前戦後の72倍のインフレはともかく、もし物価が5倍にもなったとしたら、今と同じような生活は到底望めません。

 残念ながら今の日本には、大増税と大インフレ、その2つの事態に陥る可能性が非常に大きな確率であるということです。可能性が高いのであれば、私たちは少なくとも対応するための対策をしておかなければなりません。
 では、どのような対策をしたらいいのか、続きは次回に書いてみたいと思います。

筆者:Progress International Consulting Co.,Ltd.
浅野 浩
asano@progress-international.com