日本の財政状況と私たち 〜 今後日本は、どうなっていくの? 〜  その17

2006年3月9日、ついに量的金融緩和政策が解除されました。金融政策が転換するのは、2000年8月のゼロ金利解除を除けば1990年8月以来、ほぼ15年ぶりのことです。今回は、この問題について書いてみたいと思います。

最初に量的金融緩和政策とはどのようなもので、旧来の金融政策とは何処が違っていたのでしょうか。これを考えるために量的金融緩和政策に至までを少し書いてみたいと思います。

通常、世界の中央銀行の金融政策は、景気が悪くなったら金利を下げ、逆に景気が良くなりインフレが起こりそうな気配が見えたら金利を引き上げる、いわゆる金利調整での金融政策を行っています。現在の米国での状況を見ていただければ分かると思いますが、米国はインフレが起きそうな気配があるということでどんどんと金利を上げ、インフレ抑制をしています。

バブル崩壊以降は・・・

しかし、日本経済はバブル崩壊以降、景気が最悪の状況であったため、日銀は、1999年2月に金利を最低水準にまで下げ、いわゆる「ゼロ金利政策」を採用しました。ゼロですからこれ以上金利を下げることはできません。通常の金融政策としては日銀が採りえる最後の手段でした。
ところが、それでも日本のデフレを食い止めることが出来ないため、日銀は、従来の「金利の調節」ではなく「お金の量の調整(量的緩和政策)」に変更しました。

銀行は、調達できる資金の金利がゼロであれば、少しでも運用しようと考え、資金を貸し出します。その資金が「量的緩和政策」によりさらに潤沢になれば、より多くのお金を貸し出し、その資金が市中に出回ることにより景気を押し上げ、不況から脱出することができると日銀は考えたのです。

このような流れで「量的緩和政策」が始まり、それまで4兆円だった当座預金残高を1兆円積み上げて5兆円にしたのですが、その後も日銀は当座預金残高を段階的に積み上げ、30兆円という巨額な資金を供給するような状況になってしまいました。

「量的緩和政策」を解除する

では、「量的緩和政策」を解除するということは、何を意味するのでしょうか。
これは、「量的緩和政策」をやめ、「金利の調節」による従来の金融政策を行うことを意味します。つまり、ゼロ%以下の金利はないわけで、「金利の調節」を行うことは金利上昇を意味します。尤も、まだ「量的緩和政策」時の資金が日銀当座預金に大きく残っていますので、すぐに金利の上昇が起きるわけではありません。
それでも近い将来、金利が上昇することは間違いありません。次は、金利が上昇した場合の日本のリスクについて書いてみたいと思います。

今まで何回も書いておりますが、金利が上昇するということは、債券価格の下落を意味します。現在の日本のように大量の国債、地方債が発行され、金融機関がそれを大量に保有している状況では、大幅な金利上昇は、債券価格の下落を招き、金融危機を引き起こすことにもなりかねません。
大手銀行、地銀などは株価回復や日銀の「量的緩和政策」の解除を受けて、金利上昇、保有国債の価格の下落リスクを避ける狙いで国債保有を減らしつつあります。

しかし、問題は国債の発行額がそれほど減っていないことです。つまり、国債の発行額がそれほど減らずに引き受け手である銀行が購入を控えることになれば、それだけで金利の急上昇を招くことになりかねません。

また、今まではその減少分をカバーしてきたのが郵便貯金による国債購入でしたが、郵貯残高も減少を続けており、今後、その対応が問題になることは間違いありません。今のような低金利の国債がいつまで発行しつづけられるのかと思っていましたが、いよいよその限界が迫ってきている感じがします。

さらに金利上昇により、さらなる景気の悪化を招く可能性もあります。一般的には景気は回復したといわれていますが、果たして本当にそうでしょうか。そして、今よりも更に景気が悪化したら・・・。

自己防衛する

以上のように、現在の日本は、大量の国債発行に加え、長期間の超低金利政策が継続されてきたという、火山でいえばマグマが溜まりきった状態にあると言えます。そして、今後の金利調節による金融政策では非常に困難な舵取りを迫られることになります。

ひとつ間違えば、債券大暴落(金利急上昇)、ハイパーインフレという最悪の事態さえも想定されるということです。

私たちは、日本がこのような状態にあるということを認識し、何が起きても大丈夫なように自己防衛をしなければならない時期に来ているのではないでしょうか。問題が本格化し、表面化したときには、すでに対応が取れなくなっているのではないでしょうか。

浅野 浩
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