日本の財政状況と私たち 〜 今後日本は、どうなっていくの? 〜 その18

小泉政権もいよいよ終わり、安部政権が誕生しようとしています。小泉政権の約5年半に私たちの生活環境は大きく変化しました。格差社会と言われるように勝ち組、負け組が明確になり、親子の殺人事件といった今までにない犯罪が毎日のように新聞紙上を賑わせています。
 また、一般の人たちが往来するような、今までは危険ではないと思われているような場所でも殺傷事件が起きたり、ひったくり等も日常茶飯事になってきています。

しかし、私がこの5年半の変化の中で一番危機感を感じるのは、こうした事件もさることながら、テレビ・新聞等の報道により国民の意識が大きく動いてしまうことです。逆に言えば、国民の意識が報道により、自由に操られてしまうということになります。
 例えば、少し前まで大騒ぎした耐震偽装事件は、その後、どうなってしまったのでしょうか。米国産牛肉輸入問題では、BSE問題は、安全性が確立したのでしょうか。(尤も小泉首相は、あとは買う人の責任みたいなことを発言していましたが、農水省の食堂では、米国産は使われていないようです・・・)。

さて、このような視点から日本の財政の問題を振り返りますとやはり同じような現象が見られます。表面的に国債の発行高が少し減少したため、さも財政が良くなったかのような報道がなされています。また、経済的にも景気が良くなり、財政問題を大きな問題としてとらえた報道は少なくなっています。
 また、財政だけでなく日本の国自体が危機を脱し、今後、強い国、美しい国(?)になっていくような意見が主流を占めつつあるように見受けられます。
しかし、本当に大丈夫なのでしょうか。

私は、このセミナーの中で資産の保全のためには、資産分散が必要であり、日本人にとっては米国と米ドルへの資産分散が基本だと書いてきました。が、報道の中には、米国は財政が悪くて危ないとの報道も多くみられ、資産の国際分散そのものを否定される方も見受けられます。
 果たして、本当にそうでしょうか。以下のデータをご覧いただきながら、一度基本的なところに立ち返り、お考えいただければと思います。
 今回は、国民にとって最も重要な食料やエネルギーの自給率のデータを中心に、特に日米の比較をしてみたいと思います。

1.食料の自給率


上の表は、2002年の各国の食料自給率表です。ご覧いただければ一目瞭然ですが、他の先進諸国に比べ、日本の自給率がかなり低いことが分かります。
  特に米国と比較した場合、米国が120%近い自給率があるのに対し、日本は40%しか自給率がありません。これは、他国に依存しないと国民の食糧が確保できないという、日本にとって死活問題となる状況だと言えます。

さらに穀物の自給率を見ていただきます。


同じく2002年のデータですが、人口1億人以上を抱える国としては、一国だけ異常に低い自給率となっています。米国と比較した場合、米国では約120%の自給率があるのに対し、日本はわずか28%の自給率しかありません。

このような状況の中で、もし今の日本で他国からの輸入が止まるような事態が発生したとしたら、果たして私たちはどのような食事が出来るのでしょうか。これも農水省が丁寧にデータを出してくれています。国民が生きていく最低限のカロリーをとるとすれば下の図のような食事になるようです。
  例えば、戦争というようなことでなくても、財政悪化の影響などで為替が大きく円安に振れてしまった場合、輸入品の値段が急騰し、店頭から食料がなくなり、このような食事になるという事態も想定されます。

食料自給率が低いということは、日本が、財政・経済面、政治・外交面などで問題が噴出した場合、国民の生存に直結する大きな弱点を抱えているということになるのです。
 それにしては、憲法改正などで軍事面を強調したような声は大きく上がりますが、農業を改善し、食料自給率をアップするような地道なことは、なかなか大きく取り上げられることはありませんね。


 (参考) 昭和20年代などの供給熱量(kcal/人・日)
昭和23年 24年 25年 26年 27年 28年 29年 30年
1,852 1,927 1,945 1,858 1,995 1,933 1,951 2,217

2.エネルギーの自給率

次にエネルギーの自給率を見たいと思います。


上の表をご覧いただきますと日本は、原子力を除くエネルギーについては、100%近く輸入に頼っていることが分かります。一方、米国の場合、原子力を除くエネルギーで見た場合でも60%以上自給していることが分かります。
日本の場合、最近の原油高のような情勢がさらに進んで行った場合、特に大きな影響を受け、産業だけでなく国民の死活問題にも繋がりかねません。また、有事の際には簡単にエネルギーの補給路を絶たれる可能性もあります。

このように日本は米国に比べ、エネルギー確保の部分を捉えても非常に脆弱な立場にあると言うことができます。

3.金保有量

最後に各国の金保有量を見てみます。
以下の表は、公的機関の金保有量トップ10の比較です。


金は数千年におよぶ歴史において、無価値になったことはありません。
特に欧州各国の金保有比率が高いのは、過去に何度も戦乱にみまわれ、通貨が紙切れになるという経験をしてきた事情から、金は通貨の価値の根源であり、究極の資産であるという認識が浸透しているからのようです。
しかし、その欧州以上に米国の保有高は際立っています。

次のグラフは、金保有量の多い国の外貨準備資産に占める金準備比率を表しています。


このグラフでも総じて欧州諸国の金準備比率は高いのですが、やはり米国が60%を超え、圧倒しています。
それに比べ日本は、僅か1.2%程度に留まっています。
金が通貨の裏付となるかどうかはともかく、日本円と米ドルを比較しても米ドルの方が、少なくとも安全性が高いということは言えるのではないでしょうか。

以上のように日米の経済的に最も基礎となるもののデータの一部を比較してみましたが、どちらが安全性が高いか、皆様はどのようにお考えになられるのでしょうか?

浅野 浩
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