■日本の財政状況と私たち 〜 今後日本は、どうなっていくの? 〜  その12

 今回は、「円高・ユーロ高・ドル安」をテーマにして書いてみたいと思います。

 このところの激しい円高で、特に資産をドルに分散されている皆様からこのままで大丈夫なのかといったご質問を多くいただきます。

 確かに新聞の論調やその他マスコミの報道を見ていますと米国の「双子の赤字」の問題が大々的に報道され、今にも米国が破綻するかのような印象を与える記事も少なくありません。中には1ドル50円時代が来ると言う評論家もあるほどです。

 では、本当に米国が危機的状況になっているのでしょうか?

米国の状況

 ここでお考えいただきたいのですが、これほどの円高に匹敵するほど、日本の経済や財政は米国に比べ好調なのでしょうか。また、ユーロでも同じことが言えます。円高以上のユーロ高ですが、欧州の経済が非常に好調なのでしょうか。決してそうでないことは、一般の新聞記事を見ていてもわかります。

 12月1日には財務省の渡辺博史財務官が、ドル安の主因と言われる米国の双子の赤字について「危機説を流している人がマーケットにいる」と述べたうえで、「われわれはそういう風には見ていない。これ以上悪化する状況でない」と指摘し、「足元の経済は米国が圧倒的に良い。これ以上ドルが安くなる理由は全くないというのが日欧の立場」と語っています。まして米国への経済的な依存度から考えれば、米国の好調な経済がなければ、日本も欧州も明るい方向性がないのは明らかです。

 では、どうしてこれほどの円高、ユーロ高になっていくのでしょうか?

どこの国が得を?

 ポイントは、これほどの円高・ユーロ高・ドル安になると、いったい「どこの国が得をするのか」ということです。今回、最も大きな恩恵を受けているのは他ならぬ米国です。日本では何故かユーロに対して変な幻想があるような気がしますが、逆に最も厳しい状況に追い込まれているのは、フランス、ドイツを中心とするユーロ圏、次に日本だと考えられます。

 このように見ていきますと、結果的には米国の戦略により円高・ユーロ誘導されているのではないかと考えられます。
米国の対応は?

 次に米国の対応ですが、11月19日にグリーンスパン議長はフランクフルトで開催された欧州の銀行業界の会合で講演し、「米国の経常赤字の規模を考慮すれば、ドル投資意欲がいずれ減退するのは避けられない」と語り、ある程度のドル安を容認する方向性を示しました。この発言により、円とユーロはさらに高くなり、ドル安に拍車がかかりました。

 さらに「財政赤字を削減(できることなら黒字に転換)することは、国内貯蓄を拡大させる最も効果的な措置と考えられる」と述べ、さらに「個人の貯蓄率は現在、異常に低い水準にあり、これを引き上げる政策を策定するなど、民間部門の貯蓄を大幅に拡大させることも当然ながら有益だ」とも語り、米国の個人の消費を抑制し貯蓄を増やす政策、つまり大幅な利上げを示唆しています

 したがって、今後米国では大幅な利上げがあり、それに伴い個人消費が減り貯蓄率の改善がなされるものと思われます。
米国の利上げの影響

 では、米国の大幅な利上げは、日本にどのような影響を及ぼすのでしょうか。最悪、以下のようなシミュレーションも考えられます。

米国では、
  1. 金利上昇により、米国の債券価格が下落します。
  2. 大幅な金利上昇となれば、株式市場も下落します。
  3. 個人資産が、消費から貯蓄に向かうことになります。
  4. 消費が減ることにより、米国の輸入も大幅に減ることになります。
  5. さらなる赤字削減のため、輸入に頼らず、極力自国の経済力で賄う方向性が出てきます。

日本では、
  1. 米国の消費及び輸入が減ることにより、輸出産業が打撃を受けます。
  2. 日本の経済を支えている輸出産業が打撃を受ければ、株式市場は当然下落します。
  3. 景気悪化により税収も減り、厳しい財政がさらに厳しいものになります。
  4. 米国債の価格下落も財政面で大きな影響を与えます。(日本は、大量の米国債保有国です。)
  5. 日本でも金利上昇が起き、金融機関の債券含み損が拡大します。(金融危機再燃も・・・)
  6. 金利上昇により、借入金の多い企業は経営が苦しくなります。

資産を保全するには?

 このように米国では赤字削減の政策をとり、自国の経済を強化していきますが、反面、日本はその影響で非常に苦しい立場に立たされることになります。特に財政面で危機的な状況にある現在、金利の大幅な上昇は致命傷にもなりかねません。

 短期的に見れば、まだまだ円高に振れていく可能性もあると思いますが、金融資産の保全という観点で見た場合、米国の銀行預金、米国の保険会社の個人年金などに金融資産を振り替え、保有するのが安全であると言えるのではないでしょうか。

 ただ、現実的には米国の金融機関は、外国人の資金の受け入れが非常に厳しくなっており、現段階で米国本土での銀行口座開設は、ほとんど不可能に近い状態になってきていますし、保険会社の個人年金なども加入時に米国の納税者番号の提出を求められる保険会社がほとんどです。

 名目はテロ資金の流入を防ぐためと言われていますが、実際には外国人の受け入れを厳しくし、どんどん鎖国化しているのが現状だと思われます。

 資産の分散・保全をお考えの皆様は、早めに行動を起こされることが必要かと思います。

浅野 浩
asano@progress-international.com