■日本の財政状況と私たち 〜 今後日本は、どうなっていくの? 〜  その8
 前々回のセミナーで米国は大丈夫なのか?というテーマを取り上げました。その後も新聞報道などを注意して見ていますと、「 日本は景気回復、米国は双子の赤字で経済・財政不安 」といった印象を受ける記事がやたらと目につきます。
  今回のセミナーでは、この問題をもう少し掘り下げて書いてみたいと思います。少し以前のセミナーと重なるところがあるかもしれませんがご了承下さい。
●米国の問題

 米国の状況が悪いという根拠になるものに財政赤字、経常赤字といった米国の赤字の問題があります。ここで私たちにとって考えなければならないポイントは、

  1. 米国の赤字はどれほどの規模で、米国の不安は現実になるのか?という問題。
  2. もし米国が危機に陥った場合、日本がその時どうなるのかという問題。

の2つであると考えられます。

●日米の比較

 まず、1.の問題を日本と米国、その他先進国を比較しながら見ていきたいと思います。

 確かにこのところ米国の財政は悪化しています。戦争を立て続けにしているのですから当然と言えば当然です。では、日本の財政と、数字で比較してみるとどうなるでしょうか。
  上のグラフをご覧下さい。
  これは、日本と米国の財政の安全度を比較したグラフ(2003年現在)ですが、国債の残高は、
 米国 674兆円(1ドル110円で計算)
 日本 571兆円
で米国の方が多いのですが、 GDP は、
 米国 1191兆円
 日本  498兆円
で米国が日本の2倍以上あります。

  また、日本は国債や地方債の大量発行はあるが、個人資産が1400兆円あるから問題ないという議論がありますが、個人資産残高を比較すれば、
  米国 3564兆円
  日本 1461兆円
と米国人は、日本人の2.4倍くらいの個人資産を保有しています。

 このように見ますと国債残高は少し米国の方が多いのですが、 GDP や個人資産残高を比較すると米国が日本の2倍以上あり、安全度では圧倒的に米国に軍配が上がります。

●日本の現状

 次のグラフをご覧下さい。これは、2002年度現在の先進諸国の GDP と国債残高の比較グラフです。

  この中で GDP を超える国債残高を背負っている国は日本だけで、他の国に比べいかに身の丈に対して借金の額が大きいかがわかります。
  では、日本はこの借金を少なくしていく努力はできているのでしょうか。次のグラフでは各国の歳出に対する国債依存度を示しています。

  グラフからわかりますが、これも圧倒的に日本が突出しています。国家予算の45%近くを国債の発行(借金)に頼っているというのは、はっきり言って異常事態です。
  このように日本は、先進諸国のどこと比較しても財政に関しては最悪の状況になっています。

●米国の戦略

 さて、最初に戻り、「 米国の赤字はどれほどの規模で、米国の不安は現実になるのか?」と言うことを考えたとき、その前に日本が完全に財政破たんする可能性のほうが、圧倒的に大きいと言うことが出来ると思います。

  米国の赤字を日本が云々言うのは、自国の状況を全くわきまえないことだということがおわかりいただけるのではないでしょうか。

  それでも「万一、・・・。」と言われる方があるかもしれません。
  そうなると次に、2.の「もし米国が危機に陥った場合、日本がその時どうなるのかという問題」になっていきます。

  米国では今年大統領選挙が控えています。したがって、全ての政策がこの大統領選挙を見据えて行われます。ただでさえ、イラク問題で頭が痛いブッシュ政権は、当然、経済状況が悪化する中での再選はありえません。
  米国経済を良くするためには、まず米ドルを下落させることが一番です。
  ブッシュ大統領は、ドルを大幅(一説には1ドル80円程度)に下落させることも想定していると言われます。当然、対ユーロについても同様のドルの大幅下落という事態が起こります。
  もしこのようなことが現実になったとしたら・・・。
 例えば輸出産業で考えれば、日本や欧州の商品は、米国では、価格が大幅に値上がりし販売は激減します。しかし、反対に米国の商品は競争力が増し、完全に息を吹き返すことになります。
  日欧に対し、米国経済は完全に一人勝ち状態になります。

●その時日本は

  それでは日本の状況は、この時どのようになるのでしょうか。

  まず、前述のように日本の輸出産業は、対米輸出が壊滅的な打撃を受けます。これは、欧州でも同じです。こうなると国内景気は完全に停滞し、株式市場も大暴落することになります。
  さらに日銀が、為替介入などで買いこんできたドル資産が、ドルの下落により、膨大な含み損を抱えることになります。また、日銀だけでなく都銀を始めとする大手金融機関も、こちらは膨大な株式含み損を抱え破たんすることになります。

  こうなると日本国内で大量発行する予定の国債も買い手がつかない状態(大暴落)となり、金利が急騰します。国債大暴落となれば、中小金融機関も破たんが続出します。
  金利急騰により、借入金の多い企業の破たんも急増します。外資による金融機関や企業の買収も多発します。
  金利急騰は、強烈なインフレも招きます。

  さらに日本の財政は、金利急騰による国債費の急増という事態を招き、通常の増税だけでは追いつかない歳入不足の事態となり、財産税の導入も予想されます。このとき一時的に預金封鎖等により金融機関の取引は停止されると考えられます。

 国民の生活は、増税と物価の急騰で一気に苦しくなり、外国為替市場では円の大暴落が起きますので、米ドルへの資金流出が起きます。
  この状況を止めるためには、外国為替市場の閉鎖等の措置も取られることになります。

  一方、米国も一時的には株式・債券の暴落や経済の縮小という事態に見舞われますが、必要な国だけと最低限の保護主義的な貿易をすることにより、貿易赤字は減り、経済の健全性は復活することになります。軍事費の見直しなども課題に上がり、日本は膨大な軍事費の負担も求められることになります。

●資産保全
 いろいろな事態が複雑に絡み合い、このように単純ではないでしょうが、基本的なことだけ考えれば、最悪、以上のようなシミュレーションを考えることができます。
  現実にこのような事態にならないことを願いますが、日本で報道されているように米国が本当に悪い状況になっているのであれば、逆に日本は、自国の心配を一番にしなくてはならないということです。
  今の日本の報道を見ていますと、日本は景気回復、米国は双子の赤字で経済・財政不安といった論調が多くありますが、あまりにも楽観的で的外れで、何か意図があるのではないかと疑わざるを得ません。
  資産保全ということで考えるのであれば、安全な資産の保有は、日本国内に資産を集約するのではなく、最低限米国にも資産を分散し、米ドルによる資産の保有をしなければならないことをご理解いただけるのではないでしょうか。

筆者:Progress International Consulting Co.,Ltd.
浅野 浩
asano@progress-international.com